平成25年度FJC総会 レポート

特別講演I

「超高齢社会をよくするには!」 ~大介護時代を迎えて~

樋口恵子 氏
NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事長、福祉住環境コーディネーター協会副会長、東京家政大学名誉教授
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[樋口恵子(ひぐち・けいこ)氏プロフィール]

●東京大学文学部美学美術史学科卒業後、時事通信社などを経て、1971年、フリーの評論家となり、福祉・教育・老後・消費者問題など幅広い評論活動を行う。女性運動にも積極的に参加。1999年には労働省の「女性と仕事の未来館」初代館長に就任。「女の生き方」、「私の老い構え」、「大介護時代を生きる」など著書多数。

人間の寿命が家の寿命を追い越した

これからの時代は、高齢社会の基礎知識を知らないと生き残れません。今年9月には「第1回高齢社会検定試験」なるものも始まりました。私は81歳になりますが、確かに、自分の身に照らし合わせてみましても、実際にこの歳になってみて初めてわかることがたくさんあります。

特に住宅の問題がそうです。私は40代前半に23区内に土地を得て一軒家を建てましたが、それは当時の日本政府の住宅政策に沿った統計通りのコースで、私たち夫婦も「これで自分たちの人生設計のうち、住宅は上がり」そう思っておりました。木造建築の寿命は約30年と言われていましたが、友人の建築家に堅牢な家を建ててもらったこともあり、新築のときには30年後のことなど、正直、想像もしませんでした。

ところが5年前、私は70代半ば、家は築33年を迎えたときのことです。夫はすでに亡くなっていましたが、私はまだ現役並みに働いておりました。ある日、集中豪雨がありまして、家中のバケツを総動員しても足りないほど天井から鴨居の隙間から雨水が漏れ、大変なことになりました。私はあわてて家の修理を依頼しました。足場を組んで屋根をはがし、壁もはがして塗り替えて、ついでだからと断熱材も入れ替えるなど、思わぬ大工事となりました。325万円の請求書が送られてきたときのことを、今でもはっきりと覚えています。「うっ」と思いました。幸い、私は働いておりましたから、貯金を大きく崩すことなく何とか支払えましたが、普通ならば年金生活者の年齢ですから、そうなると虎の子と思っていた貯蓄に手をつけなければ支払えない金額です。

つまり、何が言いたいかと申しますと、家はもはや一生ものではないということです。高度経済成長時代の住宅すごろくの神話は完全に崩れ去りました。日本人の平均寿命は延び続け、人の寿命が住宅の寿命を追い越してしまったのです。「マンションは月々の管理費を払わなければいけないけれど、一戸建ては購入してしまえば、あとは固定資産税だけで清々していられる。一戸建てを買ったら一丁上がり」などという考えはもはや昔の話で、今はマンションのほうが後々のまとまった出費はかかりません。一戸建ては、建てた途端、将来のためのまとまったメンテナンス費用を蓄え始めなければいけないというわけです。

また、家もそうですが、まちも老います。人も家もまちも100年社会の設計を考えなければならない時代となりました。

介護は“重さ”との闘い。これを解決するのは、テクノロジーである

先日、昨今のRT(ロボット技術)のめざましい進展にあたり、私のところに取材の電話がありました。「最近、国のほうでも介護ロボットの開発に力を入れているようだが、樋口さんはどう思うか?」というものでした。相手はきっと私に否定的な感想を求めていたのだろうと思います。つまり、「介護とは、あくまでも人と人との関わりであり、人間の手の温かみのある介護を、血の通わないロボットに委ねるのはいかがなものか」といった意見です。しかしながら、私は答えました。「期待外れの意見なら申し訳ないけれど、実は、私はロボット技術には大賛成です」と。

介護とテクノロジーの融合は、これからの大きな課題となるでしょう。私は、労働としての子育てと老人介護の何がいちばん大きな差かと問われたら、最も端的な答えは「高齢者は重い」ということだと思います。圧倒的に女性の多い職場である介護において、大人の人間を抱きかかえてベッドから車いすへ移乗させるといった行為は、明らかに重労働です。事実、腰痛が職業病とも言われ、離職理由の上位にあります。介護とは、ある意味「重さとの闘い」です。そして、私はこれを解決するのが、介護ロボットを含めた現在のテクノロジーであると思っています。

今後、団塊の世代が一気に後期高齢者となる大介護時代、絶対に介護者の人手不足の時代がやってきます。介護の仕事は今よりも大変になるでしょう。そのときに介護する人が幸せでなかったら、介護される人も幸せにはなれません。そのためにもロボットを含む福祉用具の存在意義は、これからさらに重大になってくると思います。

高齢になってからの住まいとその住まい方

内閣府の高齢社会白書によると、体が虚弱化したときにどこに住みたいかという質問に、「自宅で」が半数近く、「改修して自宅で」を含めると、実に66.4%が「自宅で老いていきたい」と思っていることがわかります。しかし、一方では、転倒などによる事故が最も多いのは家の中であるという調査結果があります。このことは、意外と知られていません。したがって、高齢になり身体機能が低下すると、若いときのままの住宅では危険箇所が多く暮らしにくいということを、もっと広く一般的に周知させる市民教育が必要だと思っています。

また、住居そのものだけでなく、住まい方の変化も考慮しなくてはなりません。今から20年ほど前、「呼び寄せ老人」という言葉がメディアで取り上げられ、高齢者の都市近郊への移動が増加しました。これは配偶者に先立たれ独居となったり、身体機能が虚弱化したりした地方に住む高齢者を、都市部に住む子供夫婦が呼び寄せ、同居するというものでした。行政用語で「不本意同居」とも言いました。

介護保険制度がスタートしたことで、一時はそれも減少したものの、近年、呼び寄せ老人は再び増加の傾向にあるようです。しかし、20年前と現在では、呼び寄せる子供の側の状況が異なります。たとえば、私の家の隣はうちとほぼ同じの70坪弱の広さでしたが、先日、取り壊されて、同じ敷地になんと3軒の家が建ちました。そんな小さな家に、高齢の親を呼び寄せて住まわすスペースなどありません。そういうわけで、同じ呼び寄せ老人といっても、以前とは形態が異なります。地方に住む高齢の親を自分の家の近くの有料高齢者住宅に呼び寄せるというケースが増え、いわゆる「サービス付高齢者住宅」が注目されてきています。

そして、この10年間で、高齢者を介護する家族の姿も変わりました。介護保険制度をつくった当時の日本の社会は、高齢者の過半数はまだ子どもとの同居の中にいたわけですが、この10年で介護をする世代の兄弟の数が減り、かつては親2人に子供が5人だったのに、今は親2人に子供が2人弱まで減少しています。2011年の調査では、すでに家族介護者のうち、主たる介護者の男性比率が30%を超えました。50歳代の働き盛りの管理職の男性が介護離職を余儀なくされているという現状です。嫁が冷たくて義父母の面倒をみないのではなく、嫁も1人娘だったりして自身の親をみる唯一の介護者だということです。

この危機的状況をどう解決するか。日本の国力を総動員しなければと思います。厚生労働大臣も「これからの介護で重要なのは、認知症の問題と介護離職を防ぐことだ」と言っています。本当にたくさんの問題が山積みですが、これからの大介護時代、住宅や福祉用具にテクノロジーを駆使して、介護をする人が健康を損なわず、介護される人ができるだけ自立を果たしていくことが何よりも大切です。住宅環境整備・福祉用具の発展に皆さま方の尽力を願いながら、私の話を終わります。