平成25年度FJC総会 レポート

記念講演会

「次期介護保険制度改正の動向と福祉用具サービス計画について」

厚生労働省老健局振興課 福祉用具・住宅改修指導官
宮永敬市 氏
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[宮永敬市(みやなが・けいいち)氏プロフィール]

●1987年九州リハビリテーション大学作業療法学科卒業。9年間岡山県の吉備高原医療リハビリテーションセンターに勤務し、96年から北九州市役所に勤務。高齢者、障害者に対して福祉用具、日常生活用具、住宅改修などの訪問指導、介護予防事業などに従事。2012年4月より現職。

次期介護保険制度改正の動向
~地域包括ケアシステムの構築に向けた取組について

平成24年度の介護保険制度改正では、地域包括ケアシステムの構築を大きな課題として挙げています。つまり、住み慣れた地域でだれもがいきいきと住み続けられる環境をつくっていくことが命題となっているわけです。介護保険制度に限らず、医療・介護・予防・多様な生活支援サービス・住まい等が包括的に提供される必要があるということです。

現在、議論が進められている社会保障・税の一体改革では、現役世代も含めた人たちがより利益を実感できる社会保障制度の再構築を目指しています。この改革の方向性の一つに、医療・介護サービス保障の強化/社会保険制度のセーフティネット機能の強化が挙げられ、そのなかに地域包括ケアシステムの確立と、医療・介護保険制度のセーフティネット機能の強化、診療報酬・介護報酬の同時改定が挙げられています。将来、医療・介護機能の再編のなかで、まずは医療機関の役割分担が必要ですし、地域包括ケア体制の整備を進めるには、重度の方を含めた医療ニーズのある方が住み慣れた在宅で生活ができるように、在宅医療を充実させることや在宅介護の充実が必要です。病気になったら医療機関で治療し、退院したら地域包括ケアシステムの中で住まいを中心に医療や介護、生活支援サービスを一体的に提供することで、生活を継続できる環境をつくろうとしています。

地域包括ケアシステムの構築は、社会保障と税の一体改革の中の柱の一つとして議論されていますが、今後の方向性としては、介護サービス提供体制の充実や認知症対応の推進、マンパワーの強化などが挙げられています。もう一つの柱としては、介護保険制度の持続可能性の確保が議論されています。この検討事項として、軽度者への給付の重点化や在宅への移行、自立支援型のケアマネジメント実現に向けた制度的対応が挙げられており、今後議論が深まっていくことと思います。

地域包括ケアシステムを推進する手法の一つとして、地域ケア会議が挙げられます。これは、地域包括支援センターを中心に位置づけ、多職種の第三者による専門的視点を交えて、自立支援の視点がより必要な事例や困難事例などの個別のケア方針を検討していく会議です。これを通じて、地域で共通の課題や特性をふまえてその地域に必要なサービスを強化していくなど、政策的なところに結び付けていくことをねらったもので、これまでのサービス担当者会議よりも幅広い視点で議論をしていける場を作ろうということです。たとえば住宅改修が議論になる場合には、福祉住環境コーディネーターの方に会議に参加していただくことも考えられます。今後は市町村においてこうした会議が実施されていくでしょうから、声がかかったらぜひ、専門的な視点から議論に参加していただければと思います。

図:「「地域ケア会議」のイメージ」
※この画像はクリックで大きく表示されます。

また、地域包括ケアにおいては、元気な高齢者の方の社会参加を推進しており、生活支援の担い手として活躍していただき、誰もが気軽に参加できる地域社会の実現に向けて、国民的な運動を推進していきます。いわば元気な高齢者の方の社会参加の場作りが重要ということです。たとえば大牟田市では小規模多機能型居宅介護事業所に地域交流拠点を併設してペン習字教室を開催したり、柏市では生きがい就労として農業を通じて高齢者の方の就労支援事業などを実施しています。こうした高齢者の社会参加の推進に関する事業は、平成24年4月に創設された介護予防・日常生活支援総合事業のなかで行われていくと思います。介護予防・日常生活支援総合事業は市町村が主体となって、地域支援事業において要支援の方や要支援と認定はされなくても虚弱な方などに向けて、総合的にサービスを提供するものです。

認知症については、今年から認知症施策推進5カ年計画を進めています。認知症は初期対応が重要であり、認知症ケアパスの作成や初期集中支援チームの設置、薬物治療に関するガイドラインの策定、グループホームや小規模多機能型居宅介護等の介護サービスの整備充実などが盛り込まれています。認知症初期集中支援チームについては、ケアマネジャーが行っていた初回アセスメントを看護職や作業療法士等の専門職がチームで対応にあたり、認知症疾患医療センター等による診察紹介などを行います。次いでケア方針を作成し、在宅初期集中支援の実施等をしていき、落ち着いてきたらケアマネジャーへ引き継いでいきます。第7期介護保険制度改正を目指して、こうしたチームのあり方についてモデル実施を通じて研究していきます。

介護保険制度と福祉用具および住宅改修について
~福祉用具や住環境は、人的サービスの前に本来考えるべきこと

さて、少し視点は変わりますが、1年間介護保険サービスを使った方の要介護度がどう変化したのかというと、7割ぐらいの方はだいたい維持できていると思います。問題は悪化した割合で、要介護度が軽い方ほど悪化している割合が大きく、要支援1の方の3割が1年後に悪化しています。こうしたデータからも介護給付の重点化・効率化を進めていくときに、軽度者の方についてよりきちっとした対応を推し進めていく必要があるということがわかります。

そこで、自立支援とはどういうことか、もう一度考えなくてはいけないと思います。「高齢になること」とは生活を送る上で作業の作り直しが求められる時期です。これまで簡単にできていたことができなくなったり、億劫になったりしてきます。生活環境や心身機能も変わる時期ですから、生活イメージを作り直していかなければなりません。作り直しがうまくいかないと、喪失体験の連続、時間があるのに何をしてよいかわからない、話したいが話す相手がいない、といったことになります。このような中で、いかにご本人の自尊心を支えることができるかが重要になってきます。

図:「高齢になることとは?」

何ができて、何ができないのか、マネジメントの中できちっと見極めていき、生活の全体像を把握することが大事だと思っています。自立支援に資するマネジメントとは、その方がやってみたいことをきちっと引き出して、それに対して何ができるか考えることが最も大切です。たとえばお風呂に入れないのであれば、なぜ入れないのか考え、できるところとできないところを分析し、練習でできる部分があればトレーニングする、動作方法を工夫できるのであれば反復練習を検討する、それでも難しければ福祉用具や住宅環境を検討する、ということです。最後には人的支援ですが、全部をケアするのではなく、できないところを支援するということです。介護サービスにはいろいろな人的支援がありますが、本来、福祉用具や住環境は、こうした人的支援の前に考えなくてはいけないことです。その人の生活環境を整えることで、できるところは伸ばす、本人が自分でできる環境を整えることで自尊心を支えることができると思います。こういう考え方のプロセスを今のケアマネジメントでは十分に対応できていないように感じていますし、少しでもこうしたプロセスに則って考えていく方向を検討できないだろうかと思っています。

福祉用具サービス計画とモニタリングの意味

生活環境は非常に大事なことであり、介護保険サービスの中で生活環境を整備するものとして福祉用具サービスがあります。これまで福祉用具に関する計画書がありませんでしたが、昨年度義務化され、1年間の経過措置を経て今年の4月に全面施行されました。福祉用具サービス計画書は福祉用具の効果をきちんと分析・検討し、的確に利用者に提供するためのものであり、また、計画書に記録されることでかなりのエビデンスが集まるのではないかと思っています。

ただ、まだなじみが浅いせいか、的確に書かれていない福祉用具サービス計画書が見受けられます。たとえば利用目標について、「特殊寝台を用いて立ち上がり動作を安楽に行えるようにする」とよく書かれますが、安全に行うことは当たり前であり、利用目標としては不適切です。おそらく、「日中夜間の立ち上がりを一人で安定して行えるようになる」ということではないかと思います。利用目標をこのように設定すれば効果検証する際には「ベッドから一人で、安定して=自分で立ち上がれるようになった」ということが自然に導き出せます。そして、ケアマネジャーに情報提供し再検討する際には、次は自分でトイレに行ける可能性がある、というふうに思考が発展して来ることとなります。利用目標は、「○○の状態なので、○○を利用して、○○のことが、○○できるようになる」という整理でなければ、モニタリングのときにどこを見ていいか、わからなくなります。利用目標が明確になればモニタリングについては自然と見る視点が定まってくることになります。

図:「福祉用具のアウトカム(イメージ)」

もう一つ記入例を挙げると、「車いすを使用することで室内の移動を安全に行う」という利用目標があるとすると、車いすの使用は一人なのか、介助が必要なのか、安全に行うのはだれなのかということがよくわかりません。たとえば、「車いすを使用することで介助なしに室内の移動を行い…」とすれば、より目標が明確となるはずです。最初に生活目標を立て、福祉用具の利用が目標に対してどう影響したのか、きちんと見ていくのが専門性だと思いますし、こうしたことが福祉用具サービス計画の中にきちんと書かれていくことが、今後求められていくものと思います。また、どのようにすれば質の高い計画書となるのか、取組を進めていかないといけないと認識しています。

また、モニタリングについては、福祉用具のメンテナンスと勘違いしている例が見受けられます。本来は、設定した利用目標に対して効果があったのかどうか、その人に有用なのかどうかを見極めなければなりません。適切な利用ができているかどうか、目標が達成されているかどうかを検証することが必要です。モニタリングの結果を見ると、こういった視点では書かれていないように感じられます。今後は、書き方等についてのガイドラインのようなものを作っていく必要があるのではないかと考えています。

福祉用具や住宅改修の動向等

なお、参考として、平成24年度から新たに介護保険の給付対象に追加された福祉用具を紹介します。特に自動排泄処理装置がレンタルできるようになったのですが、利用が非常に少ないようです。ケアマネジャーには知らない方も多く、福祉用具専門相談員の方でも実際には触ったことがない方も多いようです。非常に有用なものと認識していますが、知る機会がないことを実感しました。新しい用具を見たり触ったりできる場や研修会等が地域で積極的に行われないと、いいものがあっても普及していかないし、知らないがために人的ケア重視になる、そうしたことが行われているのではないかと感じています。自動排泄処理装置の利用状況例をみると、特に夜間に利用するのが有効ではないかと思います。たとえば、ヘルパーが夜間ケアに入ることで、本人はぐっすり眠れないこともありますし、家族は夜間、排泄介護をすれば睡眠を十分に取ることができません。ヘルパーや家族による支援と自動排泄処理装置を上手く組み合わせることで、ケアの質がさらに高まります。こうした必要な情報が必要なところへ伝わっていない面が今でも見受けられますし、大きな課題だと思っています。

次にベッドの事故について、重症と死亡を併せた重大事故は毎年10件前後発生しています。サイドレールまたはベッド用グリップの間に手足が入り込んだり、ヘッドボードとサイドレールの間に首を挟み込む事故が多いのですが、こうした事故は防げるものとして、消費者庁、経済産業省と連携して「安全点検チェック表」を全国の介護サービス事業所に周知しています。適切な使い方ができるようにチェックしていく必要があるということです。

住宅改修については、要介護度2以下の方で給付費の4分の3を占めています。介護保険を利用するには「住宅改修が必要な理由書」が事前申請時に必要になります。この理由書は福祉住環境コーディネーター2級以上の方が書くことができることになっています。保険者・都道府県に対するアンケート調査では、住宅改修全般についての課題として、指定制ではないので事業者に対する指導が難しい、事業者により技術・施工水準のばらつきが大きい、という回答がそれぞれ6割前後となっています。住宅改修の質を向上させるには、ケアマネジャーの住宅改修に関する知識や技術を向上させるという回答が圧倒的に多くなっています。しかし、ケアマネジャーの誰もが住宅改修の知識までもつのは難しい面がありますので、福祉住環境コーディネーターが住環境に関する専門知識をもったアドバイザーとしてケアマネジャーを支え、住環境について提案していけるとよいと思います。

最後に、介護ロボットについてご紹介します。介護ロボットといっても特別なものでなく、福祉機器の延長線上のものであり、福祉機器に含まれるものもあると思います。現在、経済産業省と厚生労働省では移乗介助や移動支援、認知症の方の見守りといった分野を特定して、今年から重点的に支援を行うこととしています。こうしたロボット技術の活用をきっかけに、福祉用具や住宅改修などの生活環境調整の分野が活性化していくのではないかと期待しています。生活環境調整は今後ますます重要になるでしょうし、既存のものに限らず、斬新な考えをもっと出していただき、それが高齢者の自立支援に結びついて広がっていくとよいと思います。